2010年5月6日木曜日

早稲田大学 中島治也

 2009年12月のある日、私はインターン先を決めるために 本橋ひろたか事務所に面談に来ていた。今になっては、そのときの本橋先生は、実にこのインターンの内容をよく表している言葉を教えてくれていた。「ここは、“疑似社会”だからね」。
 1月に始まり、3月におわった二ヶ月の研修は、まさに“社会”という場は一体どういうところなのか、どう振る舞うべきかを教えてくれた“疑似社会体験”であった。
“社会”、大人の世界とは思った以上に、わからず屋で、非論理的で、挽回のきかない、厳しい世界である。そこには、上手いビールの注ぎ方や、名刺の渡し方なんて序の口で、もっと冷たい人間の視線がある。自分の世界に閉じこもっているような私には、そのことを認識し、適応できるように訓練した“疑似社会”は何より必要で、ありがたいことだった。
 私は理屈っぽい性格で、うわさに聞いていた“社会”もそこまで頑固ではないと、心のどこかで淡い期待を抱いていた。しかし、政治のプロとも言うべき本橋先生の立ち振る舞いと、研修生への容赦ない指摘を見るたびに、それはただの幻想だということに気づく。  
あれは、初めて衆議院議員小池ゆりこ事務所に伺ったあとのことだった。新しく入った秘書の方が、小池事務所にて会合をしていたメンバーに自己紹介をしたが、実にまずいものだったことを本橋先生は研修生に言っていた。「彼、私たちになんて言ったかわかる?“知ってます?”って言ったんだよ?ああいう小生意気な口をきいたら、もうこの世界ではやっていけないね」。全くその通りである。しかし、それを聞いた瞬間、私はゾッとした。自分がその立場だと想像すれば、絶対にあり得ないなどとは言いきれないような、むしろ簡単にやってしまいそうなミスだったからだ。
 実際に私もこの研修期間中、数えきれないほどお叱りをいただいた。嘆く嘆かないは別にして、いずれ社会に出なければならない立場として、そのようなしくじりは極力なくさないようにしなければならない。その意味で、大変この研修はありがたいものであった。
「人間は理屈では動かない」これも、先生から教わった大事な言葉である。確かに、ワイシャツがはみ出ている人間が、どんなに力説しようとも、そこに説得力が感じられない。服の着方とプレゼンテーション能力の間には何も因果関係が存在しないにもかかわらずである。こんなことは、自分の世界で理屈をこね回しているような私にはわからなかった。そのために、私は二ヶ月の“疑似社会”を用意していただいた、本橋ひろたか先生に深く感謝するのである。

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